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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)30号 判決

主文

原判決を破棄し本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人加藤定蔵の上告理由第七点について。

債権の執行について執行裁判所が差押ならびに転付命令を発した場合においては、特段の事情のないかぎり、執行裁判所は遅滞なく右命令を第三債務者に送達するのが通常である。また、差押ならびに転付命令の申立をする債権者は、債務者の第三債務者に対する債権の存在を一応調査のうえ右申立に及ぶのが通常であるから、転付命令を無効とするような特段の事情、あるいは被転付債権が存在しなかつたことを推認せしめるような特段の事情のないかぎり、右転付命令の送達により執行債権は被転付債権の限度で消滅したものと推認するのが相当である。しかるに、原審は、被上告会社は上告会社の連帯保証人秋元武勇が第三債務者日動火災海上保険株式会社に対して金額二、二〇〇、〇〇〇円の火災保険金債権を有するものとして、青森地方裁判所五所川原支部に対し、該債権につき債権差押および転付命令を申請し、同裁判所は昭和三四年三月一七日その旨の命令を発したとの事実を認定しながら、なんら特段の事情を認定することなく、該命令が第三債務者に送達されたこと、および右債権が存在したことを認めうる証拠はないとして、右転付命令による債権消滅の効力を否定しているのである。もつとも、原審に提出された乙九号証の一ないし三(記録四二六丁以下)によれば、右差押ならびに転付命令は、当初第三債務者を日動火災海上保険株式会社とし、被転付債権を火災保険金一三〇万円として発せられたが、その後更正決定がなされ、第三債務者が日新火災海上保険株式会社に、債権額が二二〇万円に、それぞれ更正されたことがうかがわれる。そのような更正決定の効力について問題がないわけではないが、右更正決定が第三債務者に送達された場合においては、第三債務者がこれを有効として転付債権者に被転付債権を弁済することも考えられるのであつて、かかる場合、右弁済金と本訴請求債権との関係を問題とする余地も生じうるのであるから、原審としては、右更正決定の結果本件差押ならびに転付命令はいかなる者に対していかなる効果を生じたものであるか、またその結果本訴請求債権の一部は消滅するに至つたものか否かについて審理判断すべきであつて、単に更正前の差押ならびに転付命令のみについて判示したに止まり、しかも、なんら特段の事情を判示することなく、その送達および被転付債権の存在についてこれを認める証拠がないとした原審は、右の点について審理不尽の違法があり、ひいて理由不備の違法を犯したものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響すること明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

のみならず、さらに職権をもつて案ずるに、原判決の事実摘示によれば、被上告人の本訴請求は、一審判決の事実に摘示された一五通の約束手形金のうち第一の手形金から三〇八、八五三円を控除したその余の残額合計三、四一三、六八二円からさらに一部を減額した二、三七二、四三二円であるというのであり、原審は、この請求をそのまま認容しているのであるが、原判決は、右認容額に対応する手形を特定していないため、右一五通の約束手形のうち、いずれの手形について、いずれの割合による金額を認容した趣旨であるのかこれを確定することができない。したがつて、原判決には、その認容した請求の特定を欠く点で違法がある。また、原判決は、被上告会社は商工中央金庫から借り受けた金員の内から二九五、〇五〇円を上告会社に貸し付け、これをもつて本件手形の原因債権である肥料代金の弁済にあてた旨の事実を認定しながら、上告会社は被上告会社に対し右同額の借入金債務を負担することとなり、債務の総額において変りはなく、貸付金はその実代金に相当するものであり、本件手形が原因を欠くということができない旨判示している。しかしながら、肥料代金と新たに生じた貸付債権とは別個の債権であつて、前者が右貸付金によつて弁済された以上、その支払のために振出された本件手形もその限度においては原因関係が消滅したものというべきである。したがつて、原判決は、この点においても法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。本件は、右の各点について、さらに審理を尽す必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。よつて、民訴法四〇七条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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